架空請求に支払ったお金は返金してもらえるのでしょうか?
その他例えば、急にハガキやショートメッセージが送られてきて、「一週間以内に下記口座に振り込まないと、法的な手段をとります。」と連絡がきて、焦って振り込んでしまった。しかし、実際には何ら請求権は発生しておらず、架空請求だった、という場合、刑法246条1項に規定されている「詐欺罪」(※1)に該当します。人に嘘を言って勘違いに陥らせて、お金を振り込ませることは、「人を欺いて財物を交付させた(刑法246条1項)」といえます。
この場合、架空請求した者は、刑事処罰を受けるべきであるといえますが、被害者がお金を返してもらえるような規定は刑法には存在しません。
では、どのようにしてお金を返金してもらえるのでしょうか。
不法行為による損害賠償請求(民法709条)
民事訴訟を提起する方法があります。実際にお金を払って損害が生じているので、加害者に対して返金を含める損害賠償請求をします。その時、証拠として、刑事告訴した資料を提出することが多いです。実際に告訴状が受理されて警察が動いているとか、検察が起訴したなど、これらを証拠として提出することにより、こちらの有利になります。
詐欺罪刑事告訴
告訴とは、被害者や被害者の法定代理人(例:被害者が未成年者の場合、未成年者の親)等の告訴権者が、警察官や検察官などの捜査機関に対して、加害者の処罰を求める意思表示のことをいいます(刑事訴訟法第230条、231条1項)。
告訴は口頭でも可能です(刑事訴訟法241条1項)が、告訴状作成して管轄警察署に持参提出する方法が一般的です。告訴状には、裁判のように決まった書式がありませんが、事件の全容が理解出来るものでなければ受理してもらえません。具体的には、告訴理由(どのような行為が、刑法何条のなんという犯罪に当たるのか。)、告訴事実(告訴する犯罪が行われた詳細な事実の記載。具体的には、日時、場所、犯罪の経緯等を細かく記載。)、証拠など、記載は多岐にわたります。
よって、かなり専門的な内容になりますので、告訴人の代理人(刑事訴訟法240条)として、弁護士に作成・提出してもらうのが一般的です。実際の告訴は、弁護士が告訴状や証拠を作成して警察署に提出しても、一度で受理してもらえることはまれです。もっと犯罪の特定をしてもらいたいとか、事件の全容がわかる書き方に書き直してほしいとか、様々な注文がきます。何度も警察署に出向いたり、日中電話でやりとりすることも多いので、適切な法的対応をするためにも、弁護士に依頼する被害者が多いです。
問題点
刑事告訴をする際には、被告訴人(加害者)の住所、氏名が必要になります。もちろん、架空請求事件は、相手方の本名がわからなかったり、住所もでたらめであった場合などがあると思います。この場合、「不詳」として告訴することも出来ますが、全く特定できなければ捜査機関は動くことができず、告訴は難しいです。名前はわからないが住所や職場がわかる場合や、住所はわからないが出没場所や名前がわかる場合など、ある程度の特定は必要になります。
これは、民事訴訟を提起する場合も同様です。住所、氏名を訴状に記載する必要がありますので、わからなければ訴えることもできません。
とりうる方法としては、弁護士会照会という制度があります。これは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠収集や事実調査をする手段です。たとえば、携帯の電話番号がわかる場合は、携帯電話会社に弁護士会照会を行い、契約者を調べることもできます。そこから、犯人の特定までたどりつける場合があります。
しかし、実際の架空請求は巧みな方法で、特定されないように行っていることが多数です。身に覚えがない請求がきたり、おかしいと思ったら支払わずに一度相談したり、問い合わせたりして、未然に被害にあわないようにすることが大事です。
振り込め詐欺救済法
架空請求詐欺などの振り込め詐欺に遭った被害者を救済するための法律で、振込先の犯罪利用預金口座から犯罪被害金の返還を受けることができます。ただし、この法律は、振込手続による詐欺だけが対象となっており、郵送や手渡しで現金を交付した場合は対象外になります。
実際の流れとしては、
- 1.警察と振込先金融機関に被害届などを提出する。
- 2.金融機関は犯罪に利用された銀行口座の口座凍結・失権手続をする。
- 3.被害回復分配金の支払手続が開始される。
なお、被害回復分配金の支払申請期間はおおよそ90日となっているので、被害にあったと思ったらすぐに警察と金融機関に連絡をする必要があります。
この法律は、振り込みによる詐欺が増加している現代で、顔すらわからず、加害者の特定ができない場合に、被害者救済につながる画期的な法律であるといえます。しかし、被害者が多数いて犯罪利用預金口座の資金が被害額全額に足りないときは、被害額に按分して分配されることになったり、被害に遭った金額より少ない返金しかない場合もあります。